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【3月公開の注目映画】編集部のおすすめ5選

(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation


1.『シェイプ・オブ・ウォーター』

なんて美しい映画なのだろう。
言葉なんか、いらない。なんて、よく言うけれど、この映画こそまさにそれを伝えている気がした。語るより、五感で感じる。愛が質感として伝わってくる。
できるなら、雨の降る日にもう一度観たい。そんな映画だ。

1962年、アメリカ。政府の極秘研究所に勤めるイライザは、秘かに運び込まれた不思議な生きものを見てしまう。アマゾンで神のように崇められていたという“彼”の魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。二人の心が通い始めた時、イライザは“彼”が間もなく実験の犠牲になると知る─。

声を失った清掃員の女性と囚われの身の半魚人が心を通わせ、恋をする。
種族を超越した愛には、おとぎ話の世界のようなロマンティックさがある。
孤独で、社会的な“声”を持たない弱者の二人の対岸には、もちろん彼らを追い詰める強者がいて、それでも愛し合おうとする二人がいて…。
そこに人間の本質が描かれていて、ただのラブロマンス・ファンタジーで終わらせない。

主人公イライザの物語前半の恋する少女のような愛らしさと、後半の愛を味方にした女の持つ力強さ。どちらも繊細に演じきったサリー・ホーキンスが可愛すぎて胸がいっぱいになった。 ギレルモ・デル・トロ監督は本作に関するインタビューでこう語った。
「歌のような映画を作りたかったと、あれこれ考えずに感じてほしい。
もし考えるとしても、まず感じてから考えてほしい」と。
まさに、そんな映画だったと思う。
愛が質感として伝わってくる、まるで絵画のような、音楽のような映画。
語らずして多くを語った、声なき声に耳を傾けながら、そう思った。

▼Information
『シェイプ・オブ・ウォーター』

全国公開中
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スツールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
公式サイト: http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/

 

 

(C)「アイスと雨音」実行委員会


2.『アイスと雨音』

劇団ゴジゲンとして演出・出演を手がける他、近年では映像の世界でもその名を耳にすることが多い、松居大悟。
『私たちのハァハァ』、『アズミ・ハルコは行方不明』、大きな話題を集めたテレビドラマ『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』では、メイン監督も務めた。
そんな松居が自身の体験をもとに、1カットで映画を撮った。

2017年、小さな町で演劇公演が予定されていた。イギリスの戯曲を日本で初上演する。戯曲は、世界の演劇シーンで注目を集めるイギリスの劇作家Simon Stephensの「MORNING」。 親友が町を出ていくことをきっかけに、鬱屈からの夜明けを描いた物語。オーディションで選ばれ、初舞台に意気込む少年少女たち。しかし舞台は、突如中止になった。
「ねぇ、稽古しようよ」と、ひとりの少女が言い放つ―。

「今」にとことん寄り添った視線で、演者の息遣いを見逃さない。
スクリーンと、または舞台と客席の境目を感じさせないリアルな感情が溶け込んだ松居作品にいつも胸を奪われる。
『アイスと雨音』は、そんな松居節が隅々まで入魂された作品だったように思う。

74分ワンカットで描いた、1ヶ月の青春譚。 現実と虚構、映画と演劇。その狭間でもがき苦しむ若者たち。 この物語もこの映画も、紛れもない、覚悟であり、挑戦だ。 夢を追う人に、その夢を前に心が折れた人に。そして、折れた心を抱きしめてまた歩き出す全ての人に。 最後に、この映画に捧げたMOROHAの主題歌『遠郷タワー』詞を借りよう。

“未来が見えない それが不安で
未来が見えない それが救いだ
—「良かった 本当に良かった 故郷を捨てて あの街を捨てて
しがみ付く手を振り切って良かった」
言えるようにならなくっちゃ”

▼Information
『アイスと雨音』
渋谷ユーロスペース、イオンシネマ板橋ほか全国順次公開中

脚本・監督:松居大悟
出演:森田想、田中怜子、田中偉登、青木柚、紅甘、戸塚丈太郎、門井一将、若杉実森、MOROHA、利重剛
音楽:MOROHA
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
公式HP: http://ice-amaoto.com 

 

 

(C)2017 LES FILMS DU LOSANGE - X FILME CREATIVE POOL Entertainment GmbH - WEGA FILM - ARTE FRANCE CINEMA - FRANCE 3 CINEMA - WESTDEUTSCHER RUNDFUNK - BAYERISCHER RUNDFUNK- ARTE - ORF 


3.『HAPPY END』

『白いリボン』と『愛、アムール』で二度にわたって、カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールに輝いた、ミヒャエル・ハネケ監督。
老夫婦の愛と死を静かに深く描いた『愛、アムール』から5年。
最新作もまた、家族に渦巻く衝撃的な愛と死が描かれていた。
それぞれの家族が抱える“秘密”。
そして疎遠だった祖父と孫娘、ふたりを惹きつける大きな“秘密”。

建設会社を経営し、豪華な邸宅に3世代で暮らすロラン一家。家長のジョルジュは高齢のためすでに引退し、娘のアンヌが家業を継いでいた。
アンヌの弟で医者のトマには、別れた前妻との子で13歳になる娘エヴがおり、両親の離婚のために離れて暮らしていたエヴは、ある事件をきっかけにトマと一緒に暮らすためカレーの屋敷に呼び寄せられる。それぞれが秘密を抱え、互いに無関心な家族の中で、85歳のジョルジュは13歳のエヴにある秘密を打ち明ける…。

多様に拡がる情報網や連絡網、それ故に遠い人と人。それ故の人ひとりの孤独。
これは、そんな今の時代にこそ投げられるべき、問題作だろう。
秘密を抱えた3世代の家族の姿を描いた人間ドラマには、全く容赦がなかった。
人間の生々しさ、滑稽さ、虚しさ。痛くて不穏で、こちらも動揺なしには観られない。

映画を、ただ画面の中だけで起こっていること、として片せられない。
でも、それこそが多くの人がミヒャエル・ハネケに惹きつけられる理由であり、同時に私たち人間の“リアル”なのだと思う。
決して文字通りの意味だけではない“ハッピーエンド”に立ち返って、その意味を考えさせられる時、この映画はまた一つ深くなる。

▼Information
『HAPPY END』
角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

脚本・監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=ルイ・トランティニャン、マチュー・カソヴィッツ、ファンティーヌ・アルドゥアン、フランツ・ロゴフスキ、ローラ・ファーリンデン、トビー・ジョーンズ
配給:ロングライド
公式HP: longride.jp/happyend/ 

 

(c)2016 Small Shack Productions Inc. / Painted House Films Inc. / Parallel Films (Maudie) Ltd. 


4.『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』

カナダで最も愛された画家モード・ルイス。
彼女が教えてくれるのは、人生における本当の意味での大切な喜び。
愛する人と生きる幸せと、愛する夢を奏でる幸せ。
自分が愛するものに対してまっすぐな彼女の姿は、愛おしくて強い。

小さな港町で、カナダの美しい四季と動物を色鮮やかに描き続けた実在の画家モード・ルイス。その素朴ながら愛らしい絵は、今もオークションで500万円を超える値がつく。そんな彼女を不器用ながらも献身的にサポートしたのが、夫のエベレットだった。孤独だった2人は運命的な出会いを経て、夫婦の絆と慎ましくも確かな幸せを手に入れるー。

わずか4メートル四方の家。断熱材のない、電気も通らぬその家に宿るあたたかさ。そんな二人の日々に、幸せの、喜びの本質を問われている気がした。
そして、またも素晴らしい主演女優サリー・ホーキンスに、初共演とは思えない息ぴったりさで夫エレベットを演じたイーサン・ホーク。
一風変わった夫婦の愛の形が2人によって演じられたことが、この映画にとってとても大きいように思えた。

モードの全てに惹かれて役を引き受けたというサリー・ホーキンス。
「彼女を知れば知るほど、彼女を演じることを引き受けないのは愚かだと思った」とインタビューで語った。
自分の人生を、自由に楽しみ、彩ること。
絵と夫の愛に包まれ、自分らしく生きたモードの生き様と絵に触れて、愛するものへ素直でいることの大切さを身にしみて感じた。

▼Information
『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』
新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ、東劇ほか全国公開中

監督:アシュリング・ウォルシュ
出演:サリー・ホーキンス、イーサン・ホーク
配給:松竹
公式サイト: http://shiawase-enogu.jp/
 

 

(C)2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会


5.『素敵なダイナマイトスキャンダル』

—芸術は爆発だったりすることもあるのだが、僕の場合、お母さんが爆発だった。
の、書き出しで始まる衝撃のエッセイ、つまり「事実」があるのをご存知だろうか。1982年に刊行されて以来、時代を超え、さまざまな出版社から文庫化され、版を重ねているエッセイ「素敵なダイナマイトスキャンダル」である。

作者は、稀代の雑誌編集者・末井昭。母親が隣家の若い男とダイナマイト心中! という、まるで噓のような実体験を始め、自身の半生を綴った自伝エッセイだ。
そんな末井昭の人生と言葉に感銘を受けた冨永昌敬監督自身の持ち込み企画で、7年越しの想いが叶い、今回念願の映画化となった。

なんといっても、隅々までキャストが素敵!
驚愕の人生を激しく飄々と歩む末井青年に扮するのは、抜群の演技力で愛される柄本佑。時代背景をも染みつかせた繊細で大胆な演技で、末井本人からも「他人の気がしない」とお墨付きを得たほどだ。
“爆発”した母には尾野真千子。母性と妖艶さがない交ぜになったなんとも言えない表情が生々しくて震えた。

妻役の前田敦子の甲斐甲斐しく夫に尽くす姿が本当に可愛く、対に不倫相手を演じた三浦透子が体当たりで演じきった恋愛の奈落と精神の崩壊も目をみはるものがあった。他、峯田和伸(銀杏BOYZ)、嶋田久作、松重豊、村上淳、中島歩、落合モトキらがキャストに名を連ね、爆発的な彩りを添えていた。

喫茶店、キャバレー、表現と芸術とエロ、それの規制。愛があって、浮気があって、友情があって、爆発して死んだとて世にも強烈な母の影。
時代の流れと人ひとりのルーツをひしひしと感じながら追いかける半生。
最初、“素敵なダイナマイトスキャンダル”って、爆発した母のことだと思っていたけれど、観終わる頃には、彼の人生そのものが“素敵なダイナマイトスキャンダル”なんだと強く思った。

▼Information
『素敵なダイナマイトスキャンダル』
3月17日(土)テアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー

原作:末井 昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」ちくま文庫刊
監督・脚本:冨永昌敬
出演:柄本 佑 前田敦子 三浦透子 峯田和伸 松重 豊 村上 淳 尾野真千子 ほか
音楽:菊地成孔 小田朋美
配給:東京テアトル
公式サイト: http://dynamitemovie.jp/
 

Text/Miiki Sugita