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近頃、ちょっと気になるあの本、この本 #7 【愛情生活】

写真と一緒に追いかけたい愛の日々。
荒木陽子『愛情生活』

Text/Miiki Sugita



ジョン・レノンにとってのオノ・ヨーコ、シド&ナンシー、猛スピードに激しく生きた阿部薫と鈴木いづみ、別れてもなお、寺山修司と並走した九篠映子、中島らもに「ミー」と呼ばれた妻・美代子。
時に“ミューズ”とも呼ばれる、芸術家の妻や恋人が書く本が大好きだ。
独特の文体と温度を以て書かれるそれぞれの愛と暮らし。
かっこいいとか、特別だとか、天才だとか、狂ってるとか。運命の二人、ソウルメイトとかなんとか。 
芸術家なんて言われると、ついそんな風に思いがちなんだけれど、みんなくだらないことで喧嘩して別れたり、また戻ったりしているし、きちんと朝ごはんを摂っていたりする。
人としての横顔が浮かぶ彼女たちの言葉を追っていると、芸術家なんていうカテゴライズは本当はなくていいのかも、とすら時々思う。

荒木経惟、アラーキーの亡き妻荒木陽子。
「物想いに沈んでいる表情が良い、と言ってくれた」の書き出しから始まるエッセイ『愛情生活』が今年文庫になった。
とくにこの人の言葉は、飾らず自然で、率直で、可愛くて可笑しくて、それでいて叙情的で。ああ魅力的な人だなあ、会ってみたいなあとぼんやり思ってしまう。
「一人の男の出現によって、季節がはっきりと区切られていくのを、密かに自分の中に感じていた」
2人の出会いを語るその言葉に、その表現の仕方に、どしん、と胸を射抜かれた。

愛し愛され、撮り撮られ。
ぶっ飛んだことも、狂ったことも、うまくいったことも、うまくやれなかったことも赤裸々で、食事も芸術もセックスも自然のまま、同じくらい大事なように書かれていて、愛おしかった。
人によって形はあれど、愛の日々、まさに愛情生活ってこういう感じのことを言うのかなあと、憧れながら漠然と思った。

ちょうど本を読み終えた頃くらいに、東京都写真美術館で『荒木経惟 センチメンタルな旅-1971-2017-』が開催されているのを知って足を運んだ。
「陽子によって写真家になった」と語るアラーキーの妻・陽子に焦点を当てた展覧会。妻から夫へ、夫から妻へ。自分時間のタイムリーさも相まって、写真と言葉を通してのその往復書簡の濃さと輝きは凄まじく、胸がいっぱいになった。

世間が思ってることと本当のことの間にはとんでもない誤解があって、でも、別にいい、他人がどう思おうと勝手だから、私は私らしく、彼は彼らしく生きていくだけ。強く優しい想いと、センチメンタルでノスタルジックな写真たち。
愛し愛され、撮り撮られた二人の生活。色褪せない、愛。
“センチメンタル”は、2人の作品そのものなのかもしれない。

「私の彼の間を行き交っている感情の波模様が、写真をセンチメンタルな色合いに染めていると思う」(荒木陽子『愛情生活』2章「あー夫婦だなあ」より)

荒木陽子『愛情生活』/角川文庫