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【5月公開の注目映画】編集部のおすすめ5選

©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

 

1.『パーソナル・ショッパー』

「これは挑戦的な作品だ」
監督自らの宣言通り、「型破り」「心をかき乱される」「純粋な狂気」といったセンセーショナルな批評がメディアを駆け巡った。そして、賛否に割れるかに見えた評価は、監督賞受賞という栄誉で華々しく締めくくられた。

セレブの買い物を代行するパーソナルショッパーとして、パリで働くモウリーン。最高級ブランドで、ドレスや靴、ジュエリーを淡々と買い付ける日々。
しかし、モウリーンには心の奥底に秘めている欲望があった…。

サスペンスフルで、ファッショナブル。
異質な要素の掛け合わせもさることながら、物語の展開を追うごとに、こちらを全く想定外な気持ちにさせる不思議な映画だった。
別人になってみたいという欲望、自由になりたいという欲望。
そんな欲望を秘めながら、人に導かれることや支配されることに安堵を覚える。
このアンビバレントな気持ちの混在に、「誰のためにどういう自分でありたいのか」ということを問われたような気がした。

そして、この映画には、もう1つの大きな顔がある。
それは、愛する者の死を悼み、そこから立ち上がるという側面だ。
亡き兄からのメッセージを待ち続けるモウリーンの姿は、痛々しく、生々しく、そしてその切実さこそがリアルだと思った。
「生まれ変わりたい」という望み、「解き放たれたい」という願い。
この映画は、「再生」の話だと私は思う。

▼あらすじ
忙しいセレブに代わり服やアクセサリーを買い付ける“パーソナル・ショッパー”としてパリで働くモウリーンは、数カ月前に最愛の双子の兄を亡くし、悲しみから立ち直れずにいた。なんとか前を向き歩いていこうとしているモウリーンに、ある日、携帯に奇妙なメッセージが届き始め、不可解な出来事が次々と起こる―。果たして、このメッセージは誰からの物なのか? そして、何を意味するのか

▼Information
『パーソナル・ショッパー』

5月12日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
監督:オリヴィエ・アサイヤス  
出演:クリステン・スチュワート、ラース・アイディンガ―、シグリッド・ブアジズ
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES    
公式サイト: personalshopper-movie.com

 

(C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会



2.『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

「きみが見ている日差しが、夕日であろうが朝日であろうが、
それがきみのためだけに注がれているものだと信じていいよって、
言えるひとになりたかった。」
パラパラとめくる手を止め、視線を捉えて離さなかったこの初めの3行そのものを、そのままレジに持っていたような気持ちだった。
詩の名前は「プリズムの詩」。詩集の名前は『夜空はいつでも最高密度の青色だ』。詩人の名前は、最果タヒ。彼女の詩集を買うのは3度目だった。3冊持っている中で、1番好きな詩集になった。

詩集が映画化になると知ったのは、家に帰ってからやっと読んだ帯で。
詩のような映画を観ることはあったけど、もともとある詩集を映画にするというチャレンジングな試みにドキドキしていた。
詩を読んだ時に浮かぶ光の具合、朝か夜か、寒い日なのか暑い日なのか、目は開けている?閉じている? そういうものを独り占めしたい気も、同じ詩を通して他の誰かが見る景色を覗いてみたいような気も同じくらいしていたからだ。

渋谷・新宿。東京の街で男と女が出会う。
2人は信じられるものを探しながら、優しく生きようとする。
悪い予感にとらわれながら、その今を真摯に受け止めようとする。
不器用な直向きさと懸命さ。輝きはいつも刹那的で眩しい。

最果タヒの詩を読むといつも、
今この瞬間に自分の体に血が水が流れているということを思い知らされる。
死んでしまうこと、死んでしまうまで瞬間瞬間を生きていくということ。
生命を強く感じるという意味で、映画も同じだった。
「冷たい水が体内に一滴もないこと。誇っていいよ、きみは生きている。」で始まり、「きみが終わらないと、世界は続かない。」で終わる詩「花と高熱」。
映画のエンドロールを追いながら、いつまでも反芻していた。

▼あらすじ
看護師として病院に勤務する美香は、日々患者の死に囲まれる仕事と折り合いをつけながら、夜はガールズバーのアルバイト。作り笑いとため息。簡単には埋まらない孤独と虚しさ。
建設現場で日雇いとして働く慎二は古いアパートで一人暮らし。左目がほとんど見えない。年上の同僚・智之や中年の岩下、出稼ぎフィリピン人のアンドレスと、何となくいつも一緒にいるが、漠然とした不安が消えることはない。
ある日、慎二は智之たちと入ったガールズバーで、美香と出会う…。
「東京には1,000万人も人がいるのに、どうでもいい奇跡だね」。
「ねぇ、 放射能ってどれぐらい漏れてると思う」「知らない」
「嫌な予感がするよ」「わかる」
「ねぇ、恋愛すると人間が凡庸になるって本当かな」「知らない」
不器用でぶっきらぼうな二人は、近づいては離れていく。

▼Information
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
5月13日(土)より新宿ピカデリー、ユーロスペースにて先行、5月27日(土)より全国公開
原作:最果タヒ(リトルモア刊「夜空はいつでも最高密度の青色だ」)
監督・脚本:石井裕也
出演:石橋静河、池松壮亮、佐藤玲、三浦貴大、ポール・マグサリン/市川実日子/松田龍平/田中哲司
配給:東京テアトル、リトルモア
公式サイト: http://www.yozora-movie.com

 

©2017 ルー製作委員会

 

3.『夜明け告げるルーのうた』

ポップなキャラクターと、一目見た瞬間に訴えるビビッドな色彩感覚。
“動く”喜びに満ちたアニメーションの数々で、これまでも国内外のファンを魅了してきた湯浅政明。そんな彼が満を持して放つのが、初の完全オリジナル劇場アニメーションとなる『夜明け告げるルーのうた』だ。

日無町に住む中学生の少年・カイは、父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活に対しても後ろ向き。
唯一の心の拠り所は、音楽だった。
その音楽が導いたのは、世にも不思議な1つの出会いと、その出会いが生んだ仲間との絆。

「心から好きなものを、口に出して『好き』と言えている?」
そこかしこに“いいね!”が蔓延して、同調圧力がほんとうの気持ちを奪いかねない現代。湯浅本人が抱いたこの疑問こそが、物語の出発点だったという。
思春期の心をそのまま切り取ったような抑揚と疾走感。
画面いっぱいの躍動感は、そのままキャラクターの愛らしさに昇華する。
そして、物語はやがて、「ほんとうの気持ち」が僅かながらも世界を動かし、変えていくのだということを伝えていく。

人魚の伝説が伝わる港町で、人が人を、人が世界を、変えていくまでの物語。
ほんとうの“好き”と、ほんとうの“自分”。
—君の“好き”は僕を変える。

▼あらすじ
寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイは、父親と日傘職人の祖父との3人で暮らしている。家族に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。
ある日、クラスメイトの国夫と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われ、しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが3人の前に現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルー。カイは、そんなルーと日々行動を共にすることで、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく…。

▼Information
『夜明け告げるルーのうた』

5月19日(金)全国公開
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子、湯浅政明
声の出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤壮馬他
配給:東宝映像事業部
公式サイト: http://lunouta.com




©2017「美しい星」製作委員会



4.『美しい星』

三島由紀夫×吉田大八×SF!
唯一無二のSF小説を、現代を舞台に大胆脚色。
絶妙なテンポ、その瞬間瞬間の感情に訴えるカタルシス!
観る前から凄い予感しかなかったけれど、想像以上だった。

父は火星人、長男は水星人、長女は金星人へ。
突如として、平凡な家族がそれぞれ「宇宙人」に覚醒し、地球を守るべく、各々の使命に駆られていくー。彼らにとっては強い意志とメッセージ、はたから見ると完全なる奇行。そのズレに、何度も声を出して笑ってしまった。
そしてどうしてかわからないけど、ズレたまま同じものを目指して併走する彼らの姿にちょっと泣いてしまった。

スクリーンの中のありあまる非日常が、今ここに座っている自分の日常のさりげない思いを掬っていく。
「この星は美しいか」というストレートな問いかけ、<星>はつまるところ<人>であるというその主旨に、ただ呆然としてしまう。
そして、いつしか浮かび上がってきたのは、普遍的な家族の物語だった。
少なくとも、私にとっては。

独特のペースと浮力で、飄々と確実に覚醒していく父。
直感と思慕に従うように祈って祈って祈り続ける娘の美しさ。
野心と葛藤を胸の奥底に秘めたまま、大きなものに巻き込まれていく息子と、唯一の地球人として家族の中で孤立しながらも、誰よりも「家族」で在ることを願う母。

時に、生まれる星が違ったのではと思うくらいに分かり合えなくて、
それでも、こうやって同じ星の元に生まれてきたことに何らかの意味があると思いたい。気づけば、家族というホームが孕む両極端について、強く思いを馳せていた。

▼あらすじ
“当たらない”お天気キャスターの父・重一郎、野心溢れるフリーターの息子・一雄、美人すぎて周囲から浮いている女子大生の娘・暁子、心の空虚をもて余す主婦の母・伊余子。そんな大杉一家が、ある日突然、火星人、水星人、金星人、地球人として覚醒。“美しい星・地球”を救う使命を託される。ひとたび目覚めた彼らは生き生きと奮闘を重ねるが、やがて世間を巻き込む騒動を引き起こし、それぞれに傷ついていく。なぜ、彼らは目覚めたのか。本当に、目覚めたのかーー。
そんな一家の前に一人の男が現れ、地球に救う価値などあるのかと問いかける。

▼Information
『美しい星』
5月26日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋ほか全国ロードショー
原作:三島由紀夫 脚本・
監督:吉田大八
出演:リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中嶋朋子/佐々木蔵之介他
配給:ギャガ
公式HP: http://gaga.ne.jp/hoshi/

 

(C)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC



5.『光をくれた人』

1組の男女の愛の芽生えから破綻までを描いた『ブルーバレンタイン』。
幸福に輝く時間の煌めきと、呆気なく滑り落ちていく愛の末路のあまりの生々しさに、ある種のショックが後を引いてしまった。そんな私にとって、デレク・シアンフランス監督の新作を観るのは少し勇気がいった。
でも、観てよかった。この物語を知っておいて本当によかったと思う。

孤島に漂着した赤ん坊を自分たちの娘として育てた夫婦。
海での事故で、愛する夫と娘と死に別れた妻。
どちらの母の立場に立っても、どちらの父の立場に立っても、ひりひりと身が裂けるほどの思いがした。
デレク・シアンフランス監督の映画がこんなに辛いのは、登場人物の情感の描写が、そのまま見ている側の感情のひだに訴えてくるからだろう。

『光をくれた人』は、男と女の話であり、夫と妻の話であり、母と娘の話であり、父と娘の話だった。
2つの夫婦の人生と2人の母親の想いが交錯するとき、人間の持つ光と闇が見え隠れする。憎しみと喪失。愛と赦し。そして、再生。

時に妻であり、夫であり、娘。悲しく辛い物語の中にも、「光は人から人へ与えられるもの」だという強いメッセージが私たちを救う。
そして、誰か1人でいい、何か1つでいい、照らすことが、赦すことができたら、そのことそのものが“光”になるのかもしれない。
それはちょうど、暗く静かな孤島でも灯され続ける灯りのように。

▼あらすじ
戦地での悲惨な経験によって心を閉ざし、孤島で灯台守になったトム。
彼に生きる力を与えたのは、美しく聡明なイザベル。たちまち惹かれあった二人は結ばれるが、度重なる流産に、イザベルは悲しみに暮れる。
そんなある日、1隻のボートが漂着する。中には、女の子の赤ちゃんが泣いていて、同乗の父らしき人物の息はなかった。これは偶然じゃない。そう感じたイザベルは、赤ちゃんを自分の娘としてこのまま育てたいと願う。しかし4年後、2人は娘の実の母と出会ってしまう…。

▼Information
『光をくれた人』
5月26日(金)TOHOシネマズ シャンテ全国ロードショー
原作:M・L・ステッドマン「海を照らす光」
監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ビカンダー、レイチェル・ワイズ他
公式HP: http://hikariwokuretahito.com


Text/Miiki Sugita