TREND NEWS 今チェックしておきたいコト

【4月公開の注目映画】編集部のおすすめ5選

© 2016 A24 Distribution, LLC


1.『ムーンライト』

今年度アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』。マイアミの貧困地域で育った1人の男の半生を幼少期、少年期、青年期の3部構成で描いたヒューマンドラマだ。
3部はそれぞれ別の俳優が演じているが、別人だとは思えないほど、同じ目線や癖、後ろ姿、横顔。それぞれがそれぞれの表情を持ち合わせていて、観ている側が過去の面影を重ねずにはいられないほどだった。3人の俳優は撮影中に顔を合わせることを禁じられており、完成後の映画祭で初めて会ったというのだから、驚きは増すばかり。

セリフこそ少ないが、登場人物の行動や、定点で捉えた揺れ動く自然の情景、生活が立てる音、そしてその全ての前後に佇む行間が、愛、哀しみ、焦燥、恋、戸惑い、緊張、アイデンティティ、秘密、絶望、切望、に形を変えて胸にくる。

物語を語る上で欠かせない、国や人種や時代、家庭環境、性。それら設定としての社会的かつ個人的背景が、今の自分と重ならずとも、心はずっと騒がしかった。こんなに静かな映画なのに。
主人公の持つ背景を飛び越えて、広く深いところを照らし、訴えてくる映画だと思った。

「あの夜のことを、今でもずっと、覚えている」
忘れたくない甘美な思い出は、消し去りたい悪夢と紐付いている。どちらも「過去」という一直線上にあるから、都合のいいことだけを、掻い摘んで生きていけない私たちは、折り合いをつけるところを探りながら、結局全部を一緒くたにして前に進む。
光に照らされる場所を求めて、彩られるような奇跡を待って。
ムーンライト、月の光。その下で青く輝く彼らの姿を見届けてタイトルに立ち返った時、その言葉の持つ意味が、またひとつ深く突き刺さる。
そして、観終わって4日目となる今も、それは抜けないままだ。

▼あらすじ
名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で、学校ではいじめっ子たちから標的にされる日々のなか、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった。高校生になってもそんな日々は続いていたある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れる…しかし、ある裏切りに遭い2人は別々の道へと進む。そして、大人になり再会した2人。静かに語り合うなか、どんなに時が流れても忘れられずにいた想いが募る…。

▼Information
『ムーンライト』
絶賛公開中
監督:バリー・ジェンキンス
出演:トレバンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ジャネール・モネイ、アシュトン・サンダース、ジャハール・ジェローム、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス 配給:ファントム・フィルム
公式HP: http://moonlight-movie.jp


 

ⒸTOTSU、Solid Feature、WONDERHEAD/DAIZ、SHAIKER、BBmedia、geek sight


2.『ブルーハーツが聴こえる』

THE BLUE HEARTSが『リンダリンダ』という名曲をひっさげて、メジャーデビューした1987年に私は生まれた。最初に聴いたのは、小学5年の頃。5つ歳上の姉の友達にカセットテープもらったのがきっかけだった。それからというもの、"ブルーハーツが聴こえる"瞬間は山ほどあった。

中学で周りに馴染めなかった時期には『チェインギャング』が寄り添ってくれた。高校では、合唱コンクールの自由曲に『青空』を推薦し、片思いのクラスメイトには『ラブレター』が入ったMDをあげた。
18歳、上京して間もない頃には『人にやさしく』に励まされ、そして、度々趣味のギターでブルーハーツを弾き語る彼との恋愛を経て、26歳の時に子どもができた。

あの声を、メロディを、歌詞を聴くと、いてもたってもいられなくなる。映画の中の彼や彼女と同じように、体の中に持っている力全部を放りながら走り出したくなる瞬間がある。

商店街を駆け抜け、スーパーのエスカレーターを逆走して、敵にパンチを食らわした小さな戦隊ヒーローのように。
「少年の詩は風に消されても、ララララララララ間違っちゃいない」 大好きな思い出と、どうしようもない恋の終わり。全部をないまぜにして、振りほどくように叫ぶ、傷心のヒロインのように。
「悲しみが多すぎて 泣いてばかりいたって
何もみえなくなっちゃうよ」

"ブルーハーツが聴こえる"時。
それはいつも唐突で、その瞬間にはなぜか前だけを向いている気がする。
悲しみの中でも、何かを失った時でも、1秒前よりも前を向いている気がするのだ。この映画はオムニバスなのに、それぞれの主人公たちと彼らを生んだ監督はみんな“同士”だと感じる。小さなヒーローも傷心のヒロインも、そしてまた、観ている自分も漏れなく。

▼あらすじ
いまも我々の心に生き続けるうた。“日本代表”のロックバンドにして、音楽界のスーパー・レジェンド―その名はTHE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)。そんなTHE BLUE HEARTSに衝撃を受けた6人の気鋭監督が、2015年のバンド結成30周年を機に、奇跡の企画を実現。監督それぞれが思い入れのある楽曲「ハンマー(48億のブルース)」「人にやさしく」「ラブレター」「少年の詩」「情熱の薔薇」「1001のバイオリン」をチョイスして自由な解釈で映像化し、全力のオマージュを捧げた。それが映画『ブルーハーツが聴こえる』だ。

▼Information
『ブルーハーツが聴こえる』
4月8日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:飯塚健/下山天/井口昇/清水崇/工藤伸一/李相日
出演:尾野真千子/市原隼人/斎藤工/優香/永瀬正敏/豊川悦司ほか
楽曲:『ハンマー(48億のブルース)』『人にやさしく』『ラブレター』『少年の詩』『情熱の薔薇』『1001のバイオリン』
配給:日活/ティ・ジョイ


 

©2016 A&E Television Networks and RatPac Documentary Films, LLC. All Rights Reserved.


3.『作家、本当のJ.T.リロイ』

十数年前、日本でも相当話題になったノンフィクションの海外小説がある。
『サラ、神に背いた少年』『サラ、偽りの祈り』
麻薬中毒の娼婦であるサラとその恋人たちから受けた虐待、母を真似て女装をして踏み込んだ男娼。あまりにショッキングな過去を告白したのは、J.T.リロイ。公の場に出る際には、金髪のカツラと大きなサングラスでその身を隠す天才美少年作家は、そのミステリアスなオーラと類い稀なる才能で一躍時代の寵児となった。

しかし、本当のところ、“彼”は存在しなかった。
2006年のニューヨークタイムズの暴露記事はこうだ。
天才少年J.T.リロイという人物は実在すらしない、その正体は、自伝の中にリロイのソーシャルワーカーとして登場するサンフランシスコ在住の40歳女性、ローラ・アルバート。リロイになりすまし、公の場に出ていた人物は、ローラ・アルバートの義妹であり、彼自身は、彼女が創り上げた架空の人物で、物語はフィクションだった…。

1996年に彗星の如く文壇に現れ、映画化や脚本執筆でその名をさらに確実なものにし、ウィノナ・ライダーやマリリン・マンソンなど多くの著名人との交友も取り沙汰された“J.T.リロイ”。
彼は一体、何だったのか。
なぜ“作家”ローラ・アルバートは10年もの間、J.T.リロイに物語を語らせたのか。その真実をあぶり出すのが、このドキュメンタリー映画だ。

“作家”である彼女に宿る爆発的なエネルギー、それによって紡がれる壮大で複雑なJ.T.リロイの世界。その真実は今も多くの人を困惑させる。
しかしながら、小説家とは時折、自分の創造物である人物と一体化してしまう瞬間があるのもまた真実だろう。
自分以外の人間になりきって語ることの先に、見えてくるものは?
一見、風変わりなこの事件の奥にある“さらなる真実”は、表現の意義と在り方、そして、誰しもの中にも“アバター”が存在するということを、気付かせるかもしれない。

▼あらすじ
女装の男娼となった過去を綴った自伝『サラ、神に背いた少年』で時代の寵児となった謎の天才美少年作家、J.T.リロイ。その才能にほれ込み、映画監督のガス・ヴァン・サントは『エレファント』の脚本を依頼。二作目の著作『サラ、いつわりの祈り』はによって2004年に映画化された。 しかし、2006年ニューヨーク・タイムスの暴露記事によって事態は一変する。「リロイは存在しなかった」
世界を驚かせたこの事件を、彼女自身の言葉と、記録されたガス・ヴァン・サント、トム・ウェイツ、コートニー・ラブ、ビリー・コーガンらとの通話音声や留守電メッセージによって解剖していく。

▼Information
『作家、本当のJ.T.リロイ』
4月8日(土)より、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督:ジェフ・フォイヤージーク
出演:ローラ・アルバート、ブルース・ベンダーソン、デニス・クーパー、ウィノナ・ライダー、アイラ・シルバーバーグ ほか
公式HP: http://www.uplink.co.jp/jtleroy/


 

©Team ゴンドラ


4.『ゴンドラ』

見逃してはいけない、知っておいたほうがいい気がする。
この映画の存在を知った時、直感的にそう思った。
モノクロームの少女の寂しそうな、哀しそうな、それでいて何かを探しているような目つき。
—あなたには居場所がありますか?
シンプルで、それでいて“時代”を言い得たような言葉。物事が溢れ、何を愛したらいいのかわからない、先が見えず、どこを目指したらいいかわからない。それら苦悩を、この縁のない白黒の少女が一身に背負っているような、そんな気がした。

30年の時を経てのリバイバル上映と聞いて驚いた。
あまりに色褪せない、純朴で、強く優しい物語。
言葉の瑞々しさ、その情感をさらに深く訴える美しい景色。詩人の中の詩人、谷川俊太郎をはじめ、数ある著名人が絶賛の声を寄せたのも納得の作品だった。

笑うことのない瞳を持った少女かがりは、マンションの窓ガラス越し、ミニチュアールな都会の風景に海の幻を見る窓拭きの青年と出会う。そしてこの凸凹の出会いが、2人をささやかに、確かに変えていく。

ガラス窓という隔たりが、人と人の距離感そのもののようで、とても象徴的だった。こんなにも見えているけど、決して触れられはしない。叫ばなければ、言葉は聞こえない。
向こう側の景色に触れる、向こう側の声を聞くには、その隔たりを越えるか、潜るか、壊すか、だ。

人が人との出会いで得るもの、または取り戻すものとは何か。
笑うことのなかったかがりの顔に表情が戻るのを、低く一本調子だった声に抑揚が出てきたのを感じた時、そんなことを思わずにはいられなかった。
いつ誰に本当の意味で心を開けるのかはわからない。そして、それはきっとそんなに多くはない。それが人の間で生きるしかない私たちの、悲しみであり、歓びでもあると思う。

▼あらすじ
ゴンドラに乗って高層ビルのガラス拭きをする仕事に就いた青年・良。音楽家の母れい子と高層マンションに2人で暮らす11歳の少女かがりは、仕事で忙しい母のいない部屋で、2羽の白い文鳥と音叉の響きに耳を澄ますことがささやかな遊びになっていた。ある日、かがりは、文鳥の1羽が傷ついているのを見つける。マンションの窓ガラスを掃除していた良は、窓の外からその様子を知り、動物病院に付き添う。しかし、文鳥は死んでしまい、母親に死骸を捨てられたかがりは家を飛び出す。そんな彼女と偶然再会した良は、かがりを故郷の下北半島に連れて行くのだが…。
 

▼Information
『ゴンドラ』
4月15日(土)より渋谷アップリンク、4月22日(土)より大阪・シネ・ヌーヴォ、6月10日(土)より兵庫・豊岡劇場、6月24日(土)より京都・みなみ会館、7月8日(土)より神戸・元町映画館にて上映
監督:伊藤智生
脚本:伊藤智生、棗耶子
出演:上村佳子、界健太、木内みどり、佐々木すみ江、佐藤英夫    
公式HP: http://gondola-movie.com


 

©2015 Jafar Panahi Productions


5.『人生タクシー』

「この作品は映画へのラブレターだ」
観終わって、『ブラック・スワン』を手掛けた、ダーレン・アロノフスキー監督が寄せたこの賛辞に深く頷いた。
大大大大大傑作! 本当に素晴らしい映画だった。
決してあきらめない情熱と勇気、命がけの創作。そして、それを感じさせないユーモアで観客を笑いに誘い、私たちが知るべき地球の裏側のシリアスな現実をも訴える。あと2回は映画館で観たいと思った。

—なんとしてでも撮る。
イランの名匠ジャファエル・パナヒ監督は、政府への反体制的な活動を理由に、映画製作・脚本執筆・海外旅行・インタビューを20年間禁じられながらも、この名作を生んだ。その方法は、自らが“タクシー運転手”になること。
ダッシュボードに置かれたカメラを通して、厳しい情報統制下にあるテヘランに暮らす人々の悲喜こもごもの人生を描き出した。
その、喜びと悲しみを乗せた1台の“人生タクシー”は海を渡り、2015年にベルリン国際映画祭で金熊賞、次いで国際映画批評家連盟賞をW受賞し、満を持して、本邦公開となる。

ここで言えることは、この映画が素晴らしい傑作だということ。
壁に立ち向かう人々を力強く激励する、エールのような大傑作だということ。
あとは、誰が語るより、監督自らの言葉を届けたい。

「私は映画作家だ。映画を作る以外の事は何も出来ない。映画こそが私の表現であり、人生の意味だ。何者も私が映画を作ることを止める事は出来ない。(中略)芸術としての映画は私の第一任務だ。だから、私はどんな状況でも映画を作り続け、そうすることで敬意を表明し、生きている実感を得るのだ」

▼あらすじ
タクシーがテヘランの活気に満ちた色鮮やかな街並みを走り抜ける。運転手は他でもないジャファル・パナヒ監督自身。ダッシュボードに置かれたカメラを通して、死刑制度について議論する路上強盗と教師、一儲けを企む海賊版レンタルビデオ業者、交通事故に遭った夫と泣き叫ぶ妻、映画の題材に悩む監督志望の大学生、金魚鉢を手に急ぐ二人の老婆、国内で上映可能な映画を撮影する小学生の姪、強盗に襲われた裕福な幼なじみ、政府から停職処分を受けた弁護士など、個性豊かな乗客達が繰り広げるそれぞれの人生、そして知られざるイラン社会の核心が見えてくる。

▼Information
『人生タクシー』
4月15日(土)新宿武蔵野館他ロードショー
監督・出演:ジャファル・パナヒ
配給:シンカ
公式HP: http://jinsei-taxi.jp


Text/Miiki Sugita