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【10月公開の注目映画】編集部のおすすめ5選

©2016キングレコード


1.『過激派オペラ』

暗転して幕が開ける時の高鳴り、色の溢れた美術や衣装、爆発力のある台詞を操る役者の声のチャーム、そして、それぞれの凹凸と曲線を持つ女の身体性、そこから発せられる熱と圧。これまで、強烈に織り成された舞台で私たちを夢中にしてきた、江本純子が遂にメガホンを取った。

映画『過激派オペラ』は、演劇と恋愛の混沌。2つをめぐるひとつの新しい物語だった。強烈な印象を残しながらも、劇団「毛皮族」とは違う。原作とはいえ「股間」とも違う。
湿度の高いセックスも、光の入る部屋での会話も等しく生々しく、人間らしい故に馬鹿馬鹿しく、涙も叫びも稽古も濡場も全部が熱かった。そして、物語全てが稽古場に終始するさまを目の当たりにすると、やっぱり演劇を愛さずにはいられない。

併走する演劇と恋愛。ひとたび始まれば、どちらにも嫉妬や欲望がついてくる。他の女優の才にも、他の女の影にもジェラシーを燃やす。女はいつだって主演でいたい。演劇は半端じゃできない。恋愛も手加減できない。どちらも呆気なく、エモーショナルだ。その最高温度猛スピードの中を赤裸々に全開に駆け抜ける女たちの“剥き出し”の姿はただただ眩しい。

エンドロールを終えた時、彼女たちと同じ「女」であることが、たまらなく楽しくなった。
思わず立ち上がって叫びだしたくなった。
劇中の台詞を引用しよう。『過激派オペラ』は“素晴らしいカオス”だ。

▼あらすじ
女たらしの演出家・重信ナオコは、自ら立ち上げた劇団「毛布教」の旗揚げ公演「過激派オペラ」のオーディションで出会った女優・岡高春に一目ぼれし、春を主演に抜擢。猛烈なアタックにより春との恋愛も成就させる。昔からの仲間とオーディションにより新たに加わった劇団員たちと一丸となり、旗揚げ公演も大成功で幕を閉じる。すべてが順調かと思われたが…。複数の女性と関係を持つナオコと、彼女を取り巻く女たちのむき出しの嫉妬や欲望が交錯する。

▼Information
『過激派オペラ』

テアトル新宿にて絶賛公開中、以降全国順次上映予定

監督:江本純子
原作:『股間』江本純子(リトルモア刊)
脚本:吉川菜美、江本純子 出演:早織、中村有沙、桜井ユキ、森田涼花、佐久間麻由、後藤ユウミ、石橋穂乃香、今中菜津美、趣里、増田有華、遠藤留奈、範田紗々、宮下今日子、梨木智香、岩瀬亮、平野鈴、大駱駝艦、安藤玉恵、高田聖子

公式HP: http://kagekihaopera.com



© 2014 Storm Rosenberg. All rights reserved. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan Distributed by MAXAM INC.


2.『イエスタデイ』

1967年、ノルウェーの都市オスロ。放課後4人の少年たちは新譜を抱えて家へ駆け込む。タイトルは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。曲が流れるやいなや、4人は顔を見合わせる。そして、イメージする。音楽で女の子を夢中にさせたい。今、彼らが夢中なのはビートルズ。それから、女の子だ。

『イエスタデイ』は、ノルウェーを代表する作家、ラーシュ・ソービエ・クリステンセンが1984年に発表し、世界中で読まれたベストセラー小説の映画化。原題は、原作と同じく「Beatles」だ。劇中で流れるビートルズの楽曲もすべてオフィシャルで承諾されたものが使用されている。「シーラブズユー」に始まり、「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」そして、「イエスタデイ」のちの「レットイットビー」。

モラトリアム真っ只中にある彼らの戸惑いや不器用さ、苦悩や葛藤、そして、素直な喜びや興奮。少年たちの抱えている「今」の手触りがすごくリアルだった。主人公であるキムは、物語の後半で顔つきがぐっとクールに見える。最初は心もとなかった表情に意思が宿るのを見た時、青春の偉大さを痛感させられた。

傷心の昨日から立ち上がった時に初めて、心の声が音になる。大勢の前に立ちながら、たった1人に向かう、誰の真似でもない自分の歌。
そうか、音楽ってそういうものなのかもしれない。そして、憧れを持つことと、自分を見つけることは、本当はとても関係があるものなのだ。
この物語は、信じた昨日を脱し、昨日より確かな“なすがまま”を見つけるまでの、ほんのひと夏の青春だ。

▼あらすじ
ビートルズが世界中に大旋風を巻き起こしていた60年代半ば。オスロに住む高校生4人組は“スネイファス”というバンドを結成し、自分たちもビートルズのように有名になりたいと夢を見ていた。そんなある日、ベース担当でポール・マッカートニーに心酔するキムは、見ず知らずの女の子ニーナと映画館で出会う。別れ際、ニーナに突然キスをされたキムは、彼女がどこの誰かもわからないまま、想いだけを募らせていった。一方、キムのクラスにセシリアという名の転校生が。その美少女のピンチをキムが救ったことで、2人の距離は縮んでゆき…。

▼Information
『イエスタデイ』

10月1日、新宿シネマカリテほか全国順次公開

原作:ラーシュ・ソービエ・クリステンセン
監督:ペーテル・フリント
脚本:アクセル・ヘルステニウス  
出演:ルイス・ウィリアムズ、ホーヴァール・ジャクウィッツ、オレ・ニコライ・ヨルゲンセン、ハルヴォー・シュルツ、スサン・ブーシェ、エッマ・ウェーゲ

公式HP: http://yesterday-movie.com



©2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS


3.『淵に立つ』

今年のカンヌ国際映画祭で、ある日本映画が大きな注目を集めた。『淵に立つ』だ。「日本で最も創造的な映画監督の1人」「ロベール・ブレッソンや大島渚を彷彿とさせる」など大絶賛を受け、初参加で公式部門にノミネートされ受賞を果たしたのだ。日本映画史に残る快挙を成し遂げた深田晃司監督はこう語る。

「孤独な肉体を抱えた個々の人間が、たまたま出会い、夫婦となり親となり子となって、当たり前のような顔をして共同生活を営んでいる。私にとって、家族とは不条理です」

当たり前のように自分の最も近しいもの、親しいものとしてきた「家族」が、他人の参入によって、大きなうねりを見せる。
不調和と不条理があぶり出す「家族とは何なのか」という問い。
これは、とある家族の物語でなく、私たち受け手に向けても投げかけられている。家族の崩壊を通して見えてくる、人間の心の暗闇。その暗闇と対峙することは、観るもの自身も崖の淵に立つようなものだ、と。

「わたし」が存在している限り、どんな形にせよ「家族」は存在している。
そして、多くの人が自分によって新たに存在させる。“生まれた家族”の母、父、きょうだい、そして、“生む家族”の夫、妻、子。
到底、完全には理解しあえない他者との共存を、私たちはなぜこんなにも求めるのか。
「家族」とは人間の習性であると同時に、希望に近いものなのかもしれない。

▼あらすじ
郊外で小さな工場を営む夫婦とその一人娘。 ある日、 夫の旧い知人だという男がやって来て、 奇妙な共同生活が始まるが、 やがて男は残酷な爪痕を残して去っていく。 それから8年。 夫婦は皮肉なめぐり合わせにより、 男の消息の手がかりをつかむ。 だが救いのように見えたそれは、 互いの心の奥底を覗き込む行為に他ならなかった…。 

▼Information
『淵に立つ』

有楽町スバル座ほか全国公開中

監督・脚本・編集:深田晃司
出演:浅野忠信、筒井真理子、太賀、三浦貴大、篠川桃音、真広佳奈、古舘寛治

公式サイト: http://fuchi-movie.com/ 



©2016 「永い言い訳」製作委員会 PG-12


4.『永い言い訳』

—妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった。そこから愛しはじめた。
映画『永い言い訳』のキャッチコピーだ。衝撃的な言葉だと思った。
泣けなかった別れの理由は、真意は何だろう。

西川美和監督は、物語の端緒をこう語る。「発案は震災があった年の暮れくらいで、突然の別れを経験した人が、その後どのように立ち直っていくかというドラマを作ってみたいと思った」
同じ事故で、妻を亡くした男と母を亡くした子どもたち。
その不思議な出会いから、「あたらしい家族」が動きはじめる。

死を前にして溢れる感情は、寂しい、悲しい、辛い、だけではない。
死別は時に唐突で、そして、どうしようもない隔たりや蟠りを残したままになることがある。人間は思っている以上に複雑で、不完全なものなのだ。
そして、どうしようもない隔たりや蟠りを抱えても、立ち直っていかなければならない。緻密に、そして強烈に描かれている、入り組み絡まった心理描写と1人の人間の変化。身につまされる想いだった。人間関係の「不確かさ」、ひとを愛することの「素晴らしさと歯がゆさ」に心が大きくかき乱された。

—妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった。そこから愛しはじめた。
あの衝撃的な言葉には、生きなければならない者の血が通っていた。
1人の男が、別れ、気づき、求め、悔やみ、立ち上がり、愛すまでの “永い言い訳”の物語。

▼あらすじ
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族—トラック運転手の夫・陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う灯と、妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが…。

▼Information
『永い言い訳』

10月14日全国ロードショー

原作・脚本・監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里

公式HP: http://nagai-iiwake.com/



©2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会


5.『湯を沸かすほどの熱い愛』

ポスターを前に、思わず声に出してしまったことを思い出す。情熱の赤と力強い筆致を眺めながら、なんて心が動く言葉だろうと思った。国内外14の賞に輝いた『チチを撮りに』をはじめ、これまでもずっと「家族」をテーマに物語を紡いできた中野量太監督の商業デビュー作。監督は「今まで見たことのないほどの熱い熱い愛の物語を」と本作に臨んだという。

母の映画であり、子の映画であり、夫婦の映画であり、何より家族の映画だった。物語に出てきたすべての人をこんなに愛おしく思った映画は初めてかもしれない。あの人の強い愛で、この人たちの必死な愛で、涙が止まらなかった。

母が子へ伝えたいこと、教えたいこと。その本当の意味は、いつも少し遅れて届く。たとえば、行きたくない学校を休ませてくれなかった日。
立ち向かった先の眩しい景色を見てはじめて、母の言葉の深さに気づくように。
人知れず強く深い母の愛。スクリーンを目で追いながら、母に背いて強い言葉を投げた朝を、母の背中につかまって泣いた夜を同時に思い出していた。

遅かれ早かれ避けらない“死”という別れを前に、家族とできることって何だろうか。そして、別れの時に家族ができることって何だろうか。
見たことのない、熱い熱いラストに心を奪われながら、また小さく声に出していた、湯を沸かすほどの熱い愛。この愛を1人でも多くの人に知ってほしい。

▼あらすじ
銭湯「幸(さち)の湯」を営む幸野家。しかし、父が1年前にふらっと出奔(しゅっぽん)し銭湯は休業状態。母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。その日から彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め、実行していく。
家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる。気が優しすぎる娘を独り立ちさせる。娘をある人に会わせる。その母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うことになり、彼らはぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく。そして家族は、究極の愛を込めて母を葬(おく)ることを決意する。

▼Information
『湯を沸かすほどの熱い愛』

10月29日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
脚本・監督:中野量太
出演:宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼、松坂桃李、オダギリジョー他

公式HP: http://atsui-ai.com